どこで食べるかより、誰と食べるかが肝心だ。しかし、一人飯だっていい。主人公・井之頭五郎がつぶやく「うまいぞ」は知らない街の、知らない店に読者を誘う
久住昌之さん原作、谷口ジローさん作画の「孤独のグルメ新装版」(扶桑社)。例えば、なじみのあった東京・渋谷の話である。井之頭は「ここはもう俺のくる場所じゃないな」と思いながら歩く
「焼餃子(やきぎょうざ)480、焼そば480」とある店に、餃子ライスと決めて入る。ところが、白い飯はない。ならば餃子にビールといきたいが、井之頭は酒が飲めない。「この場合やはり酷だ」。匂い、音まで伝わってくる
本書に収められた鼎談(ていだん)で、久住さんが語っている。<驚いたのは、俺の書いた一言一句が、ちゃんと全部マンガになっていて…>。谷口さんは語尾も変えないどころか、焼き肉の鉄板から見上げた井之頭の顔まで克明に絵にした
谷口さんが逝った。明治時代を舞台に、作家関川夏央さんとともに文豪らの姿を描いた「『坊っちゃん』の時代」で手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞している。「孤独のグルメ」はドラマ化され、人気を集めた。欧州など海外でも高く評価された
古里・鳥取市の天文台は、2000年に発見した小惑星を、谷口さんにちなんで名付けた。天を仰いだ人は多いだろう。井之頭五郎もきっと…。