<純粋と神聖をもってわが生涯を貫き、わが術を行う>。悪を排し、秘密を守り、分け隔てなく医術を施す

 そんな医師の職業倫理をうたった「ヒポクラテスの誓い」は、古代ギリシャの医術を集大成した「医学の父」に由来する崇高な理念である。医師なら誰でも知っている・・・はずだ

 京都府立医大病院で不正行為の疑いと聞いて、この誓いと共に、医学生の青春群像を描いた映画「ヒポクラテスたち」を思い出した。悩み、成長していく医師の卵の姿が印象に残る作品で、ロケの舞台は大森一樹監督の母校でもある京都府立医大

 長い伝統があり、腎臓移植で西日本随一の症例数を誇る。ところが、名門病院で起きたのは、現代のヒポクラテスにあるまじき事件である

 腎臓移植を受けた暴力団幹部が、収監に耐えられない健康状態だとする医師の虚偽の診断書や意見書に助けられ、収監を免れていた疑いが強まった。病院長は虚偽の書類を作成した疑いについて「いずれも公正・適切なものだ。内容に虚偽はない」と否定した

 暴力団幹部と医師。法律を犯すような深い関係になりそうもない両者に一体、どんな癒着が? 京都府警が病院を家宅捜索するなど捜査のメスを入れたが、徹底してうみを出し切ることだ。病院に黒い病巣があっては、患者に顔向けできまい。「医学の父」にもだ。