シラスウナギを取って手にしたお金。なくさないようポケットの中、汗ばむぐらい握り締めた。その硬貨で一つ。大正14年生まれの漁師の父へ、初めてのプレゼントは100円ライターだった

 まだ小学生だった40年ほど前、遠い日の記憶である。この1本を、父親は長く使い続けてくれたそうだ。こう言いながら。<このライターは不思議だ、ガスがなくならない>

 いつまでもなくならない。そんなことはあり得ない。後で知れるが、父親は同じライターを何十本も買い込んでいた。事務機器メーカーのマックスが募った「心のホッチキス・ストーリー」の入賞作の一つ。三重県の50代の男性がつづった

 同社によると、「あなたが今、心にとどめておきたいこと、つないでおきたいこと」の趣旨に、約1万3千件の応募があった。助け合いの大切さを記した作品が多かったという。うち入賞した九つのいい話が、同社のホームページで読める

 東京五輪・パラリンピックに向けて、受動喫煙の防止強化策が議論されているさなか、この欄でライターの話を紹介するのは、気が引けた。がんや脳卒中など、病気になる危険性を高めるのに、喫煙を助長するつもりか、とお怒りになった方もおられよう

 それでも、あえて紹介した理由は一つ。できればこんな親でありたい、と思ったからである。