そよとでも、風が吹こうものなら倒れてしまいそうなほど、やせ細っている。握手した、その手は冷たく湿っていた。少女は8歳、名前を聞くと「トエラ」と答えた。末期のエイズ患者だった
アフリカ南部、ザンビアの首都・ルサカの孤児院で彼女に会った。母子感染。生まれたころから病気と闘っていた。「持って数カ月でしょうか」。職員から聞いた。それから15年になる
裏の林には、小さな土まんじゅうが数十並んでいた。幼くして亡くなった子どもたちである。そこを遊び場にしていたラシェル君は、ルワンダ内戦で両親を失った。快活な子だったが、孤児院に来る前のことに触れると口を閉ざした
卒業式の季節になると、アフリカで出会った子どもたちのことを思い出す。近年、経済発展は目覚ましいが、困難を抱えた子はまだ多い。比べて、先進国の子はどれほど恵まれているだろう
だから、夢がどんなに大きかろうと、簡単に諦めてはいけない。道がいかに遠くても、路上をねぐらに明日の食べ物を心配したり、少年兵として駆り出されたりする子どもたちよりも、はるかに近い場所に立っている
そんな不公平な世界を変えよう、といった夢もいい。門出に当たり、心の辞書から「諦め」という言葉を追放しよう。小さな夢さえ持てない子どもがいる。忘れないでほしい。