敗戦後、現地にとどまり、独立運動などに加わった元日本兵は約1万人を数える。中国やインドネシア、そして天皇、皇后両陛下が訪問されたベトナムの事例が代表的だ

 太平洋戦争終結時、仏領インドシナ(ベトナム、カンボジア、ラオス)に進駐していた日本兵は8万人。うち600人は帰還せず、建国の父ホー・チ・ミンが率いるベトナム独立同盟(ベトミン)などに身を投じた。軍の指導者として期待されたのである

 文にして数行の事実は知っていても、彼らの境遇に思いを寄せたことはなかった。まして、ベトナムに残された妻子らの苦労は、想像すらしなかった

 フランスからの独立戦争後、日本に引き揚げる夫に同行できなかった人は多い。ベトナム戦争もあって対日感情は悪化し「ファシストの家族」と差別され、苦労が続いたという

 歴史の大きな流れからすれば、よどみに浮かぶうたかたのような、はかないエピソードだ。でも、記憶しておかなければならない。そのことを改めて教えられた公式訪問である

 一粒の涙が、時に数百行の原稿よりも多くを語る。両陛下と面会した元日本兵の妻、93歳になるスアンさんの頬をぬらしたのは、そんな涙だった。ベトナムでは近年、独立戦争で日本兵が果たした役割を再評価する動きがあるという。いま一度、平和の尊さを思う。