古い電話機1台に、競売で2700万円もの値がついたという。いくら昨今、世界の耳目を集めている米国での話といっても驚くが、ナチス・ドイツの指導者が使っていたとあれば、物言わぬ歴史の証人、そんなものかと納得した

 鮮やかな赤色でダイヤル式。車や列車で移動する際、ヒトラーはこの電話で指示を出していたそうだ。背面には「アドルフ・ヒトラー」と刻まれている。忘れ物をしてはいけないと、持ち物に名前を書いた小学校の修学旅行のようでもある。だが、笑ってはいけない

 忌まわしい妄想も、心の内にとどまっている間はたかが知れている。独裁者の妄想を、この電話が現実の世界に伝え、1本の電話線で地上と地獄とを結んだのである。「何百万人もの人々を死なせた、最も破壊力のある兵器」とする競売会社の説明は当を得ている

 北朝鮮が、再び弾道ミサイルを発射した。「在日米軍」に言及した挑発は、かえって王朝の崩壊を早めるかもしれない。今度の米国の指導者は、さほど忍耐強くもなさそうだ

 大戦末期、ヒトラーは新兵器の弾道ミサイル「V2号」で起死回生を図った。数千発のV2でロンドンやアントワープを襲ったが、戦局を変えられはしなかった

 歴史には時折、似た事象が起きる。極東の独裁者の電話機は将来、どれほどの値がつくだろう。