かつて、わが家に来ていた菓子問屋の人から聞かされた小話がある。笑いも涙も誘わないが、よく覚えている

 駆け出しの頃、小売店に集金に行かされたという。ある日、出張先で泊まることになり、旅館に入る。寝る前に気になったのは、袋いっぱいの硬貨。金庫があるわけではなく、宿に預けるのも気が引けた

 そこで腹巻きに袋を挟んで布団に入った。ところが寝返りを打つと小銭が動く。音をたてる。腹も冷える。後日、先輩にこの話をすると、こう言われた。「そうよ、お金は冷たい」

 話はそこまでだが、哲学者内山節さんは本紙1面コラムで、これとは違う「冷たいお金」について書いた。いわば人の心を冷やしていくお金である。逆に<他人のために役立てたり、豊かな関係をつくるために用いられるお金もある>。時に金額以上のものをつくる、それを「温かいお金」と呼ぶとも

 このコラムに、小学生が反応した。「お父さんとお母さんのいっしょうけんめいはたらいたお金は、『あたたかいお金』です」。5日付の別刷り特集「徳島県新聞感想文コンクール」で読んだ小学生1~3年の部、最優秀作の一節である

 だます、困らせる、嫌な気持ちにさせる。「冷たいお金」をせしめる人が後を絶たない。お金をためる、使う、生かす、そこに宿したいのは「温かさ」である。