ごみ焼却場の反対運動を取材したときのことだったと思う。集会も一段落して、参加者と一緒にたばこでも吸っていたのだろう。こんなふうな会話を交わした覚えがある

 記者「役所の資料では、焼却場は環境基準をクリアしているようです。ダイオキシンが心配、と言いながら、たばこをすぱすぱ吸うのもどうでしょう。そちらの方が体に悪くはないですか」

 参加者の一人「たばこの害だけでも大変なのに、その上にダイオキシンだよ。だから反対だ」。説得力があるようでないような答えに、顔を見合わせて笑った

 健康を基準にすると、焼却場で増えるリスクより、喫煙を続けるリスクの方が、数字の上でははるかに大きいだろう。とはいえ、環境汚染物質の影響もその程度か、とはならないのが人間心理の微妙なところである

 豊洲市場への移転問題で、石原慎太郎元知事が東京都議会の証人喚問に臨んだ。先日の会見と同様、決裁した責任は認めたものの、追及する議員の迫力不足も相まって、すっきりせずに終わった

 元知事は、有害物質の検出された地下水を使うことはないのだから、豊洲市場は安全と強調した。理はあれど、安心は、理屈では割り切れない。ことに「虚偽」や「隠蔽」「記憶にない」がはびこる昨今である。政治利用したい人もいて、豊洲の海、確かに波高し。