「獺祭(だっさい)」に、ピンと来る人は嫌いな方ではないだろう。山口県の銘酒である。あるいは俳句を詠む人かもしれない。春の季語でもある。「獺祭忌」とくれば、正岡子規の忌日。そもそも、獺(かわうそ)の祭りって何だろう

 詩文を練るのに多くの参考書を広げ散らすことをさすが、もともとは、何匹もの魚を並べてから食べるカワウソの習性を、人の先祖祭りに見立てて言ったらしい。いかにも悠長である。ニホンカワウソは既に絶滅種に指定され、酒と文学がすみかとなった

 原因は、乱獲や環境改変。犯人は捜すまでもない。自然の一員であることを忘れた人間の罪深さを考える。赤ちゃんを運んでくるというこの鳥も、日本産の野生種は、童話の世界に追いやられていた

 特別天然記念物のコウノトリ。人工繁殖と野生復帰に取り組む兵庫県豊岡市から飛来した鳴門市のつがいの卵が、どうやら、ふ化したようだ。徳島県によると、1971年に国内で野生種が姿を消してから、同市周辺以外での野外繁殖は初めてになる

 かえったのは何羽かと気ははやるが、ひなを確認したわけでなく、親鳥の行動から推定したそうだ。親子とも微妙な時期である

 はえば立て、立てば歩めの親心、とは言うものの、見守る私たちは気を長く、遠くから。若々しい翼が、鳴門の空に新しい物語をつづる日を楽しみに。