鮎喰を「あゆくい」と読んでしまうのは当然かもしれない。鮎喰川を知らなければ、そうだろう。文芸誌の新人賞に小説を送りつけた鮎喰響を、編集者はこう読む。<名前も、本名なのかペンネームなのか…あゆくい?>
 
 徳島市出身の柳本(やなもと)光晴さんの「響(ひびき)~小説家になる方法~」(小学館)の主人公である。この「響」が「マンガ大賞2017」を受賞した。書店員や漫画ファンらが、昨年発売された漫画の中で最も薦めたい作品として選んだものだ
 
 目利きたちのお墨付きには、すぐ反応してしまう方だ。高校に入学したばかりの響、背景で交わされる会話がいい。<どこ中(ちゅう)の人?><オレら同中(おなちゅう)なんだ。国府ってトコ><オレは地元の佐古中>
 
 東京に行っても、海外に行っても、「徳島」を探してしまう。漫画でもそう。それだけに鮎喰、国府、佐古の響きは心地良い。柳本さんはこう答えている。「名前を決める時にいつも思いつくのは生まれ育った土地のなじみのあるもの」
 
 15歳の鮎喰響と編集者、文芸部の仲間、この後は、次なる展開はさて、とページを繰るのは速まったり、止まったり。「響」が重版出来(じゅうはんしゅったい)となるのもうなずける
 
 過去の受賞作の多くは実写化されているという。鮎喰川の鮎喰。主人公の生きている舞台が「徳島市をイメージしている」ともなれば、気もはやる。