中国生まれで日本育ちのある生徒の胸をひっかき続け、嫌な響きとなって耳の奥に残っていた。「黙れ。中国人」。大げんかした友達に言われたという
 
 ある日、生徒はサービスエリアで同じ響きを感じた。桃をせがむ子どもに母親が言った。「だって、この桃、福島産だよ」。この話は21編が収められた「ふくしま道徳教育資料集 絆」(中学校版)にある。風評は桃を傷付け、育てた農家を失望させる。助長した風評は新たな悲しみを広げる
 
 福島県から避難した子どもへのいじめは昨年、横浜市や新潟県で発覚した。川崎市に自主避難した生徒は、避難先の中学校に通っていたころ、暴言を吐かれたという。「福島県民はばかだ、奴隷だ」
 
 今もどこかではびこっていないか。悩みを抱えた子どもはいないか。資料集は、福島県教委のホームページで読むことができる。全国の教委や図書館にも届けられているという
 
 冒頭の生徒は結びに、こう書いている。偏見や差別をなくすのは難しいかもしれないが<相手を知ろうとする姿勢と思いやる想像力をもち、周囲の人に接していこうと思う>。いつかきっと、お互いに慈しみ合う世界になるのを信じて
 
 6年前、多くが被災者の傍らに立っていた。そこには贈り、贈られたい言葉があったはずだ。出会いと別れの春にそれを探そう。改めて。