店の者には口うるさく、堅物で通っていた番頭には裏の顔があった。実は相当の遊び人。この日もなじみの芸者を連れ、桜見物としゃれこんだ
桜の土手は大変な人出だ。人に見られでもしたらまずい。てなわけで、屋形船で杯を重ねていたが、興が乗ってきたのか扇で顔を隠し、おかへ上がって鬼ごっこ。千鳥足で捕まえたのは…。「ああ、これは旦那さま、お久しぶりでございます」
落語「百年目」の番頭が、来年にはのれん分けという大事な時期にしでかした大失態だ。気が緩んだのは、酒と春の陽気、桜の持つ不可思議な力のせいだろう。その美しさは人を無防備にする
散々気を持たせてきた徳島市の桜が開花した。筆者の自宅近くの神社の、むなしく光っていたちょうちんも、あと数日で満開の夜桜を照らすことになろう。格別の名所でもないのに毎年、吸い寄せられるように人が集まる。やはり桜と日本人、切っても切れない
さて、旦那。番頭の分不相応な遊びに驚いて、店の帳簿を調べた。横領の形跡はなく、おとがめなしとはしたが、分からない。「なぜ、あそこで、お久しぶりと言ったのか」。首を覚悟していた番頭が振り返る。「ここで会ったが百年目と思いました」-
落語と違って現実は、そうそううまい落ちはつかないけれど。<時は春、すべて世は事もなし>。
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