1期生、17人の卒業式に間に合ったという。<きらめく川は 友だちさ 眉山(びざん) 城山(しろやま) なかよしさ>で始まる徳島文理小学校の校歌である。作詞は詩人の大岡信(まこと)さん

 村崎正人理事長は述懐する。共に父親が歌人窪田空穂の弟子だった縁で1989年8月、作詞のお願いに出向いた。ところが当日は台風。夜10時半に東京の自宅に着き、快諾を得た

 90年1月、「けさ、校歌ができました。今からファクスで送ります」との電話の声に胸が熱くなった。見ると、びざん、しろやま、とルビがある。後日談だが、知人が東京芸術大の教授会で同席した大岡さんから、こう聞かれていた。「眉山はまゆやま、それともびざん」と

 この前年に、詩集「故郷の水へのメッセージ」で現代詩花椿賞、評論「詩人・菅原道真」で芸術選奨文部大臣賞を受賞している。「『忙即閑』を生きる」(日本経済新聞社)という著書もあるが、忙と閑を縫って校歌を仕上げたのだろう

 <心につばさ もつならば 思いのままに 西東(にしひがし) 飛んでいけるね 本の国 宇宙も胸のなかに…>。戦時中、図書館で漱石、鴎外を読んだ記憶も刻まれているに違いない

 村崎さんとの対談でフランスのある詩人の言葉を紹介していた。「人間は後ろ向きになりながら未来へ進んでいる」。古典の恵みを大切にした大岡さんが逝った。