戦前のような時代が再び巡ってくる。今どき、そんなことがあるはずはない、と思う。しかし、大臣も十分に説明できない法案の採決が、衆院法務委員会で強行される今どきである。油断ならない、とも思う

 治安維持法違反で摘発され、終戦から程なくして獄死した哲学者、三木清の「人生論ノート」を買ったのは高校時代だ。評論家の小林秀雄、同じく亀井勝一郎の著作とともに、かつては受験生の必読書とされていた

 間口の広さを感じる「ノート」という表題の割に、「死について」から始まる文章は難解で、まるで歯が立たなかった。世の中のことを、ことさら難しく言うのが哲学者だ、と勝手に解釈して、放り出した。どだい、高校生には高尚過ぎたようである

 多少、言い訳がある。「内心の自由」や「表現の自由」が保障されていなかった三木の生きた時代、発禁処分を逃れるためには、分かりにくく書くほかはなかった、といった事情もあるらしい

 「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ「テロ等準備罪」を新設する組織犯罪処罰法改正案。治安維持法との共通点を指摘する人も多いが、来週中にも成立しそうだ

 「しーっ、めったなことを言うもんじゃないよ」。そんな時代の門を開かないのだろうか。心配ない、と政府は言うけれど、安心できるほどに説明してもらってはいない。