正々堂々。大関昇進を決めた高安の口上である。小細工はしない、ひきょうなことはしない。言い訳が許されない土俵で、自分の相撲を取るという決意だ

 この日が来るのを誰が想像できただろうか。2005年2月に入門したが、程なくして鳴戸部屋(現田子ノ浦部屋)と茨城県内の実家を何度も行き来することになった

 兄弟子との折り合いに苦しんで、「十数回」も逃げ帰った。父は根気強く部屋に連れ戻し、集まった力士の前で床に手をついた。母は「もう辞めていい」とさえ口にしていた

 子を思う父の、母の気持ちは一つ。横綱日馬富士を破って、昇進を確実にした直後、一息ついた父、涙を流した母の胸中には、12年前からの足跡がよみがえったか。まだ27歳。両親のように喜んだファンも多かろう

 「人十(と)たびこれを能(よ)くすれば己これを千たびす」。人が十回すれば自分は千回するという意味だが、兄弟子で同郷の横綱稀勢の里との、そんな猛稽古が実った。先代師匠の故鳴戸親方(元横綱隆の里)の厳しい教えもあったはずである。強烈なかち上げと、立ち合いで胸から思い切り当たる相撲に磨きがかかる

 新大関の口上に、好角家の期待も高まるに違いない。土俵の上には、今や大手を振って歩いている「忖度(そんたく)」や上下関係もない。高安が信条とする、正々堂々があるのみだ。