伊吹島は香川県観音寺市の沖、燧(ひうち)灘の中ほどに浮かぶ。讃岐うどんのだしに欠かせない「伊吹いりこ」の古里である。カタクチイワシ漁の解禁を前に、三番叟(さんばそう)回しの芸人を迎える風習がある。阿波木偶箱まわし保存会の門付けに同行した

 なぜ伊吹島か、と不審がる向きもあろうが、さかのぼれば徳島との縁は深い。島の歴史に詳しい三好兼光さんによると、戦国時代、畿内を支配した阿波ゆかりの三好氏、その本家筋が織田信長に追われ、たどり着いたのがこの島とされる。阿波の芸人も古くから足を運んでいたらしい

 「えびすが来とる」。兼光さんが先触れになり、15軒ある網元の加工場を訪ね歩いた。木偶を遣うのは保存会の中内正子さんと南公代さん。鼓の音も軽やかに人形が舞う。えびすに頬をなでられ、家人の胸で赤ん坊が笑った

 「今年の解禁は12日。漁が始まる前、箱回しに福を授けてもらう。小さなころから、そうやったね」。大網組合の総代、52歳になる北山正夫さんは言う

 網元の家には必ず人形が飾ってあるそうだ。衣装も立派で、中には名人天狗久の作品も。人形は神の使いでもある

 平安時代のアクセントが残るといわれる歴史ある島。自然、労働、信仰。幾重にも積み重なった時間をしっかり受け継いできたのだろう。比べて街の生活は、いささか平板に思える。