青森・岩木山麓の山荘「森のイスキア」は寄る辺だった。心に重荷を抱えた人が訪ねてくれば、佐藤初女さんは名も尋ねずに迎え入れたという
 
 初女さんは、おむすびで心を通わせ、ひたすら耳を傾けた。岩手の宮沢賢治もそうだろう。冷害や凶作に苦しむ東北の人に心を寄せ、童話を書いた。東に病気の子、西に疲れた母、南に死にそうな人、北にけんかや訴訟・・・と内心の祈りを記したように、人に寄り添った
 
 福島県出身の漫画家深谷かほるさんの「夜廻り猫」(講談社)にも、その一端を見る。主人公は遠藤平蔵なる猫。悲しい、つらい、切ないという人の「涙の匂い」をたどり、読む人の気持ちを和ませる8コマ漫画である
 
 例えば、亡き母から怒られた思い出しかない女性に、残された携帯の動画を平蔵が示す。そこには<あなたに私はいい条件をあげられなかった それなのに世間並みの結果を求めてばかりいた>と吐露し<自分の価値がわかる人になってね><私の子供になってくれてありがとう>という母の姿があった
 
 百人に百の悩みがあるが、多くは人間関係に起因するに違いない。先月、第21回手塚治虫文化賞の短編賞を受賞したのは寄る辺なき時代の要請なのかもしれない
 
 <心で泣いておるな?>。見えない涙を流している人はすぐそばにいる。平蔵がそう教えている。