歯に衣(きぬ)着せぬ語り口は時に心地良く、時に耳が痛い。作家の佐藤愛子さん。エッセー「九十歳。何がめでたい」(小学館)が中高年女性を中心に支持されている
 
 出版取次大手の日本出版販売とトーハンがそれぞれ発表した今年上半期のベストセラーランキングで、1位となった。収められた29編に愛子節がさえる
 
 もっともっと・・・と欲望を肥大化させる社会を批判し、「文明の進歩」の代わりに謙虚さや感謝、我慢が失われたと嘆く。進歩が必要だとしたら、それは人間の精神力だと喝破する。何の不足もない、考えない生活から自立心は生まれず、生まれるのは依存心だという
 
 この春、旭日小綬章が贈られたが「そんな立派な作家じゃないんです」「じくじたるものがある」。本書がベストセラーになっていることには「率直に物が言えない時代、言いたい放題言うのが現れたから珍しいのでしょうね」
 
 降りかかる災難にも、逃げずに闘ってきた。気質の源を探れば、父で作家の佐藤紅緑(こうろく)に行き当たる。その日記から拾った「人は負けるとわかっていても闘わねばならぬ時がある」という言葉は、苦しい時の血肉になったと本紙2011年5月の連載で述懐している
 
 愛子さんの著書にある「血脈」。潔い書きっぷりにも、語り口にも父が宿っているのかもしれない。きょうは「父の日」。