<へぼ将棋王より飛車をかわいがり>。いつ、誰が詠んだかは知らないが、素人将棋の本質を突いた川柳である。盤面を縦横に走る飛車は最強の駒だ。ついつい、王様よりも大切にしたくなる
 
 それでも、指していると、王様を守る代わりに、飛車を手放さざるを得ない窮地にも陥る。「目から火が出る王手飛車」。そんな言葉が浮かぶ心に、もはや、これまでとの絶望感が漂う
 
 その飛車を平然と切る。角も切る。飛車角の大駒が飛び交い、意表を突く一手が何度も出る。追い詰められても、巧みに攻撃をかわし、相手の王様を仕留める
 
 「見せる将棋」とでも言おうか。それが、史上最年少棋士の藤井聡太四段の将棋だ。昨年12月のプロデビュー以来、破竹の27連勝。あと1勝で、歴代1位の大記録に並ぶ
 
 30年ぶりの偉業をかけた一戦の相手は、澤田真吾六段である。今季の王位戦で挑戦者決定戦に進出した若手実力者だ。2度目の対局で、前回は大接戦の末に負かしたが、先輩棋士にも意地があろう。藤井四段は「ここまで非常に幸運だった。意識せず自然体で指したい」と気負いがない
 
 「名人に定跡なし」。どんな将棋でも指しこなすのが、真の名人だという。中学3年生、14歳にして変幻自在な指し回しを見せる藤井四段。一手一手が、将棋界の未来を切り開いているようでもある。