「せこうないですか」。徳島市の病院で手術を受けた後、看護師に体をさすられながら、ふと笑いが込み上げたという。県外から来た患者にとって「せこい」はお金にケチという意味を持つからだ
 
 方言は地域に生きる人の言葉である。徳島大総合科学部教授の村上敬一さんが興味を持ったのは高校生のころ。恩師と共に、古里の熊本県内で幅広い世代の「がまだしもん」(働き者)らの聞き書きをした。以来、「地域言語学」は生涯の友となった
 
 図らずも、そんな経験が生きたのは、昨年4月の熊本地震だ。発生直後に関係者から依頼されたのが、支援に来る医師や看護師ら向けの熊本弁ガイド作りだった。家族や友人、母の実家がある益城町(ましきまち)の様子を気にしながら一晩、ほぼ寝ずに仕上げた
 
 例えば「くちびる」は「ツバ」、腕は「エダ」という具合である。古語の世界に迷い込んだ気にもなるが、これが伝わらなければ支援される側は「疎外感を覚えるかもしれない」。無用の混乱を避けて、不安を減らさなければとの思いだった
 
 村上さんと研究室の学生が作った阿波弁ガイドにも、それが息づく。既に県内から30件超の送付依頼があるという。問い合わせは同学部総務係<電088(656)7103>
 
 ガイドは支援者向けの備えだが、訪れた人への土産にもなろう。これはいける。