大分県日田市役所に夫婦で避難した、87歳になる高倉辰雄さんが「こんな大雨は人生で初めて」と不安そうに語っていた。長い経験の堤防を越える。大災害の常である

 雨雲が帯状に連なった「線状降水帯」と呼ばれる現象が、記録的な大雨を招いたらしい。九州北部に停滞した梅雨前線に、大量の湿った空気が流れ込んで、積乱雲がほぼ同じ場所で発生し続けた

 大量の泥と流木が道をふさいでいる。流された家、鉄橋。福岡や大分の被災地から届く映像に驚く。七夕のきょうも現地は雨が降る見通しで、なおも警戒が必要だという。無常の雨が降りやむのを願わずにはいられない

 梅雨は、もともと中国から伝わった言葉で、日本では長く五月雨と呼び習わされていた。芭蕉の<五月雨をあつめて早し最上川>はよく知られているが、蕪村の句にもある。<さみだれや名もなき川のおそろしき>

 名もなき川が激変するこの時季、集中豪雨の恐ろしさ。きれいに護岸が整備されていたとしても、絶対の安全を保証してくれるわけではない

 住んでいる地域のことを普段からよく把握しておくことが防災の第一という。温暖化の影響もあるのか、毎年のように耳にする「記録的な大雨」が、次はわが家を襲わないとも限らない。想像し得る最悪の事態をもう一段引き上げ、備えておいて損はない。