白い航跡も長々と、船は大海原を進んでいる。<しんしんと肺碧(あお)きまで海の旅>(篠原鳳作)。甲板に立ち、潮風を深々と吸い込めば、海の色に胸の奥まで青々と染まりそう。そんな情景だろうか
 
 いいねえ、夏、クルーズ。もっとも、篠原は1936年、30歳で亡くなっている。鹿児島県出身で、沖縄県宮古島などで教師をしていたから、定期航路の旅の途中なのかもしれない
 
 こちらも宮仕えの身。時間もお金もかかる船旅の機会は当分やってこないだろう。が、ここは島国四国、徳島。和歌山便にでも飛び乗り、枯木灘にでも出掛けようか。紀伊水道を行くフェリーからの眺めも悪くないはずである
 
 夏休みが始まった。当時はまだ、港は小松島。ちっか(ちくわ)売りのおばさんがいて、大海に出る気分で船に乗った子どものころを思い出す。記者になってから、おばさんと再会し、聞いたことがある。「随分ともうかったんでよ」。港小松島、華やかな時代の記憶だ
 
 それはともかく夏休み。特別の体験を、と考えている保護者も多かろう。ぐんと伸びる夏である。海外であれ、近場であれ、子どもたちは空白のノートに、新たな経験を書き込んでいくのだろう
 
 そんな余裕はあるかいな、という受験生も、部活ざんまいの子も。健康と事故には十分に注意して、特別な夏にしてほしい。