グラウンドは、二つの水滴が混じり合う場所である。悔し涙と、うれし涙と。全国高校野球選手権徳島大会は、鳴門渦潮が板野を下し、9年ぶり7度目の栄冠をつかんだ
板野の右腕は、最終回の攻撃中、ゲームセットの声を待たずにベンチで顔を伏せた。「森井絃斗君、泣くな」と、思わず声が出た。1回戦敗退の常連校。主将として、チームのみんなと力を合わせ、湧き上がってくる思いが抑えきれなくなる、そんな場所まで来たんじゃないか
正直に言うと、やや板野に心が傾いての観戦だった。勝てば、春夏通じて初の甲子園。判官びいきというほど弱くはなかった。「たまたまここまで来られたのではない」。監督の言葉通りのチームだったといえるだろう
ただ、総合力では河野成季投手を中心にした鳴門渦潮が勝っていた。評判通りの実力を発揮し、伸びのある直球で押す大会屈指の本格派を攻略したのは、見事というほかない
悔し涙で言えば、鳴門渦潮も、その常連校だった。決勝まで駒を進めても、あと1勝が遠かった。2012年に鳴門第一と鳴門工業が統合し、現在の校名となってから初めての甲子園となる
渦潮の二文字がグラウンドを駆ける。図らずも、徳島県のPRともなりそうだ。甲子園の開幕は来月7日。渦潮の夏。とめどなく流れる喜びの涙を、再び見たい。
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