アイヌの誇りを尊重し、共生社会の実現を目指す新法「アイヌ民族支援法」が成立した。

 法律として初めてアイヌを「先住民族」と明記したのが特徴だ。画期的なことであり、その意義は大きい。

 厳しい同化政策によって文化や言語を奪われ、差別されてきたアイヌ民族の尊厳を取り戻す出発点にしなければならない。

 新法は、政府がアイヌ政策推進本部を設置し、基本方針を作ると規定した。これに基づいて市町村がアイヌの文化、産業、観光振興のための地域計画を作成すれば、国が関係事業に交付金を支出し、後押しする。

 アイヌが民族儀式に使う林産物を国有林から採取するのを特例で認め、河川で伝統的なサケ漁をする場合には、知事による許可手続きを簡素化することも盛り込んだ。

 「北海道旧土人保護法」に代わり1997年に施行された「アイヌ文化振興法」が、文化の普及啓発に偏っていたのに比べると、前進したと言えるだろう。政府と市町村は事業の実効性が上がるよう、アイヌのニーズをしっかりと把握しながら、計画を練ってもらいたい。

 先住民族の権利回復や、独自の文化に理解を深める取り組みは近年、世界各地で活発になっている。

 2007年には、自決権や文化的伝統を実践する権利、土地に対する権利などを広く認めた「先住民の権利に関する宣言」が、日本も賛成して国連総会で採択された。

 衆参両院が、アイヌを先住民族と認めるよう政府に求める決議を全会一致で採択したのは、その翌年のことだ。

 そうした流れで生まれた新法だが、国連宣言で先住民族の権利とされた自決権や教育権などは明記されなかった。これに対して、アイヌ関係者からは批判も出ている。

 北海道が17年に行った「アイヌ生活実態調査」では、大学進学率は33・3%で、居住地域の平均より10ポイント以上低く、生活保護受給者の割合は多かった。「差別を受けたことがある」と回答したのは4人に1人に上る。依然として、格差が残っているのが実情だ。

 新法は付帯決議で、国連宣言を尊重するよう求めている。政府は、格差と偏見を取り除く具体策を早急に打ち出すべきだ。

 なぜ支援が必要なのか、国民に説明を尽くすことも政府の責務である。アイヌは優遇されているといった、誤った認識が一部にあるためだ。

 アイヌは明治以降、北海道の開拓に伴って土地を奪われ、狩猟や川での漁を禁じられた。民族性を否定する同化政策により、伝統的な社会や言語、固有の価値なども破壊されてきた。

 その過酷な歴史を振り返れば、新法の制定は遅すぎたと言わざるを得ない。今後、不十分な点を見直し、真の共生社会を築く礎としたい。