長崎県・対馬での話。夜分、宿の周辺を行き交う大勢の足音がする。不思議に思い旅の人、どうして夜歩きする住人が多いのか、と亭主に尋ねた。答えていわく。「あれは皆、かっぱです」
 
 対馬でカワウソの映像が確認された。国内では、目撃例も38年前に絶えたままだった。絶滅したとされるニホンカワウソか、と心は躍るが、50キロ離れた韓国から渡ってきたユーラシアカワウソの可能性もあるという
 
 かの地のカワウソは海を20キロ泳いで平気らしい。潮に乗れば50キロも不可能な距離ではないそうだ。それならそれで、よくぞまあ、とねぎらってやりたいところだ
 
 明治期までは広く分布していたニホンカワウソは、かっぱのモデルともなった。となれば冒頭の話も、とはいかないもので、柳田国男は「妖怪談義」で、カワウソではなく、鳥類の可能性を指摘している
 
 こうした例はあるけれど人を化かす、だまして川へ引きずり込む、といった説が全国的にある。かつては妖怪世界の住人だった
 
 かっぱが消え、ぜいたくな毛皮があだをなして、ニホンカワウソも絶滅に追い込まれた。妖怪もすめなくなったこの世界、本当に怖いのは人間だ、と話を落としたいところだが、対馬にひょっこり現れたカワウソ。最近はどうかね、と聞けば彼らにも、言いたいことが、たくさんあるに違いない。