繰り返し悪ふざけをして、しまいにはひどい目に遭うオオカミ少年の物語は、うそをつくのがどれほど愚かなことか教えてくれる。どこで読んだか、この話には別のパターンがある
そちらの少年は、うそつきではなく、ひどく臆病だった。月の影に、風にそよぐ草に、羊を狙うオオカミの気配を感じ、大騒ぎをして村人を困らせる
3度目には信用をなくし、「オオカミだ」と叫んでも、誰も助けには来てくれず、よく知られた話と同じ結末を迎える。全く悪気のない少年を襲った不幸である
政府は南海トラフ巨大地震につながる異常現象を観測し、事前の避難を促す仕組みづくりに乗り出す。被害の軽減が期待できるものの、避難しても地震が起きない「空振り」がどこまで許容されるか。科学的根拠が十分でない、との声もある
風水害などの経験からは、「空振り」を恐れず、積極的に避難を促すに越したことはない。ただし何回も続くようでは、住民にそっぽを向かれる可能性がある。全国瞬時警報システム(Jアラート)も同様だ
臆病な少年も、助けを呼んだ根拠をしっかり説明していれば、状況は違っていたのかもしれない。逆に慎重さが評価され、村人は何度でも勇んで駆け付けてくれたかも。問題は、信用に値するだけの努力を、どれだけ重ねるかにかかっているのだろう。