桜の名所、徳島中央公園の木々の中でも、市民の人気は一番だったように思う。徳島城博物館の西側に立つ、1本のしだれ桜だ。陽光に包まれ、鮮やかな桃色を背景に多くの人がポーズを取っていた
 
 1カ月前に列島を席巻した台風18号で大ぶりの枝が幹から落ち、しだれの片側をほぼ失ってしまった。命脈が尽きたと思うほど、裂け目は大きく、痛々しかった
 
 徳島吉野川ライオンズクラブが、京都のクラブとの姉妹提携記念に、22年前のきょう植樹した。山口裕史会長は造園家に手配し、傷口を応急処置した。後は経過を見守るしかないという
 
 「生きられるなら生かしたい。友情の証しを簡単に枯らすわけにいかない」。色づくイチョウの横で、残った葉をちょっとだけ秋色に染め、今日も生きる
 
 嵐が来ても樹木に逃れる場所はない。当たり前じゃ、とつぶやくように、公園の一角で樹齢600年の巨木「竜王さんのクス」が横たわっている。83年前の室戸台風で倒壊した姿のまま。地面近くは死んでいるようだが、見上げると若葉をたたえている。命の何たるかを教えてくれるようだ
 
 傷んだもの、弱ったものは見苦しいものとして安易に捨てられる当世である。来年の春、しだれ桜が例年のように咲き誇ることはないだろう。立っていれば、「頑張ったね」と声を掛けていただきたい。