旅行でも出張でも、手放せないのが「活字」だ。今やスマートフォンなどに押されて、新聞や雑誌、文庫本を開いている人は少数派だが、これがなければ移動は味気ないものになる
「活字」を登山の友にしていたのは、昨年10月に亡くなった田部井淳子さんだ。1975年に女性だけの登山隊でエベレストを目指した時のこと
少しでも荷物を減らさなければならず、本を持って行けなかった。何カ月も日本語を目にしない生活が続き<次第に活字に飢えてくる。荷物のパッキングに使っていた新聞紙のしわを手で伸ばして皆で読み…>。そんなエッセーを「私の本棚」(新潮社編)に寄せている
雪崩に襲われて、九死に一生を得るような経験をした田部井さんらのテントでの一端が垣間見える。下山するのか、このまま登頂を目指すのか。思いが揺れることもあった。「活字」を読み合い、語り合ったことが、結束をより強める助けになっていたのかもしれない
「飢えて」以来、海外の山には必ず本を持参したという。持ち出して出掛け、帰れば元に戻す。俳句や漢字の本、サスペンスやミステリー。田部井さんは本棚を「読書のベースキャンプ」と呼んだ
山あり、谷ありの人生である。折々に示唆してくれるのが読書だろう。上り調子の戒めに、下り坂の励ましに。9日まで読書週間。