気合の入った手つきだ。駒から指を離すと右手を太ももに下ろす。パシッと音が心地いい。日本一の将棋駒の産地として知られる山形県天童市。JR天童駅1階にある「少年少女将棋教室」を訪ねた先月下旬、15歳、藤井聡太四段が高校進学を決めたというニュースが流れた
来年春、中学を卒業する最年少棋士が将棋に専念するかどうか。棋界最多の29連勝を達成した中学生プロの進む道に、ファンならずとも関心を寄せていた
どこまでも話題になる15歳である。彼の存在が、手作業の駒づくりを活気づけ、教室の門をたたく小学生らの背中を後押ししている。夕暮れが迫ると、道場に、塾にでも通うようにやって来る。夏休み以降、その数は増え、週末は混み合う
もちろん、夢見るのは第2の…。親にとっては身に付けさせたいことも少なくないようだ。礼儀や集中力、想像力、平常心、そして決断力。人生に欠かせないものが、そこにあるのだろう
そんな教室に隣接する天童市将棋資料館で、徳島の人の名を見つけた。掲げられた年表に、こうある。1898年、「小野五平、十二世名人を襲位」。美馬市脇町で旅館を営む家に生まれ、泊まり客が指す将棋をはたから見て覚えた。7、8歳で頭角を現し、棋力を高めた
盤上に響く駒音の余韻に浸りつつ、先人の足跡に思いをはせた。