明、清の宮殿で紫禁城と呼ばれた故宮博物院は、北京観光の目玉である。トランプ米大統領の来訪で閉め出しをくらった観光客の嘆きに同情した。中国流の「おもてなし」は、実に徹底している。ためらいがない

 25年前の秋もそうだった。日中国交回復20年を期して天皇皇后両陛下が初めて訪中した。万里の長城に続いて故宮を訪れた時、今回と違って観光客らしき「市民」はいた

 しかし、彼らが本当の市民だったかどうかは極めて疑わしい。万里の長城にも同じ人々がいたからだ。彼らは数台のバスに分乗して両陛下の向かう先々に現れた。あれあれ、あの家族も、あの親子連れも

 目をこすったが、やはり同じ人たちにしか見えない。観光客を装ったサクラなのか。なぜ、こんなことが起きるのか。それは、日本側が事前の交渉で二つのことを要望したことに始まる

 一つは両陛下の身にくれぐれも大事がないように。もう一つは、両陛下が市民と交流できるように。安全と交流は矛盾する要求に映ったようだ。北京の警備当局者が考え出した苦肉の策が、サクラ作戦だったのだろう

 天安門事件から3年が過ぎた頃のことである。本当の市民は両陛下や一行の視線の届かない所で「おもてなし」が終わるのをひたすら待っていた。その表情に、歓迎も不満も垣間見ることはできなかった。