その「ことば」の世界に、心の渇きを潤す人は多いのだという。静岡県三島市の「大岡信ことば館」で開かれている追悼特別展を見て、古今東西の言葉の「心」を届けた詩人の軌跡をたどった
 
 <中心となるのは大岡信の言葉そのもの。大岡の言葉の表層に触れ、その深層に息づく詩人の内面世界を旅していただきたい>と案内文にある。自筆の原稿を前に、朗読する音声を聞きながら、詩人から励まされ、呼び掛けられているような気になった
 
 文学も美術も音楽も「人が人に何かを伝えようとすること、コミュニケートしようとすること」を「ことば」と考えれば、世界を楽しく、深く感じることができる。そう考えてきた岩本圭司館長の思いは格別だ。追悼展が終わる26日を最後に「ことば館」が閉館するからである
 
 文学館にも美術館にもない新しい試みを続けた。「中間的な存在だけに、ギャップに苦しんだこともあった」。責任は重く、今は「空虚感とホッとした気持ち」が同居しているようだ
 
 訪ねた翌日、「ことば館」では谷川俊太郎さんら5人の詩人が大岡さんへの敬意を込めた連詩を編み上げ、作品を解説したという。遺志は引き継がれ、共有されるに違いない
 
 大岡さんは4月に86歳で亡くなった。閉館後も、詩人が生涯紡いできた「ことば」の世界を旅する人は多かろう。