帝(みかど)に未練を残すかぐや姫は、不老不死の薬を献上し、後ろ髪を引かれる思いで月へ帰った。姫のいない今となっては薬など何になろう。帝は嘆き、天に最も近い高山で燃やしてしまうよう命じた

 使者は大勢の兵士を率いて頂へ向かった。ここから士に富む山、富士山と呼ばれるようになったという。最古の物語、平安初期の「竹取物語」が伝える山名の由来である。薬を焼く煙は、いつまでも絶えることがなかった

 古来、日本文化は秀麗な富士のような形で成立していた。人形遣い、農村舞台、人形浄瑠璃が、文楽の高みへと昇ったように、雄大な裾野があってこそ、さまざまな花が咲いた

 1人遣いの人形芝居「阿波木偶箱まわし」の継承に取り組む保存会の20年余りの足跡を紹介する企画展(きょうまで、徳島市シビックセンター)を見つつ考えた。幅の広さと厚みとを時代遅れと勘違いし切り捨てていったのが、明治以来の近代化ではないか

 名人・天狗久らの木偶が並んだ会場で、辻本一英顧問は言う。「世界各地を訪ねたが、人形作りの技術は阿波が一番。それなのに、ある人形師は『町内一』を誇りにしていた」

 町内一が世界に通じる。その作品を携えて芸人が全国を巡る。地域に広く根を張っていた文化を絶やすまい。継承者に恵まれ、伝統はようやく不老不死の煙を浴びる。