日本のものづくりを支えてきたのは素材産業の現場だろう。支えるのは、もとより人、人。そこに宿っているのは、自分にも、将来にも恥じない仕事のはずだ
 
 ところが、どうしたことか。神戸製鋼所、三菱マテリアルに続いて東レグループでもデータ不正が発覚した。改ざんは1年以上も公表せずにいた。宿していたものが失われていったのか。ものづくり日本の名折れ、である
 
 <木や鉄や土を使って、新しい使用価値を生み出すのがものづくり>だ。12年前の本紙に載った小関智弘さんの寄稿にある。町工場の旋盤工として長く働いた作家が、かつて起きたビルの耐震強度偽装問題に触れ、書いた
 
 <職人たちは、自分がつくるものに誇りと責任を抱いて生きた>。結果として商品価値が生まれ、利益が得られるのだと強調している。そんな主客は既に逆転してしまったのか
 
 素材業界では、「特別採用」という商習慣がある。顧客の了解を得て、わずかに仕様を満たさない製品でも納入するというものだが、東レの子会社はこれを「悪用」したらしい
 
 グローバル競争にさらされ、利益と効率を優先させなければ生き残れないとはいえ、主客を間違えてはいけない。「偽」は、人の為(ため)と書くが、為にはならない。ものづくりの現場に宿すべきものは人の為になる、人の役に立つ仕事である。