プロ入りが果たせなかったこと。それは挫折かもしれないが、敗北ではない。「人生は長く、さえない人間になることこそ負けだ」。師の言葉は、名言ではあっても、そう簡単に人間、すっきりと割り切れるものではない
本紙の連載「駒と歩む」で、厳しい将棋の世界を垣間見た。プロ棋士を養成する奨励会には高い壁がある。「26歳までに四段」。大勢の人がこれに挑み、はね返されてきた。徳島市出身の藤原結樹さんも、その一人である
奨励会退会後、アマチュアとして再スタートしたという。顕著な成績を挙げれば、編入試験でプロへの道も開ける。10年ほど前にできた制度だが、合格者はこれまでに2人だけだそうである
ラクダが針の穴を通る方がもっとやさしい、とは言い過ぎだろうが、前途多難には違いない。「未練」と藤原さんは言う。その通りとは思う。が、こんなことも思うのである。やすきに流れていては分からない。「未練」の重みを知るのは挫折を味わった人間だけだ
28歳。まだ第2章が始まった辺りである。これから3章、4章と、いかようにでも書き継いでいける年齢だ。「さえない」とは、不承不承生きる人間のことだろう
羽生善治棋聖が史上初の「永世7冠」を成し遂げた。その栄誉を祝福しつつ、挑戦の気概を忘れない藤原さんにも声援を送りたい。