将棋の棋士は対局を終えると精も根も尽き果てるらしい。タイトル戦の7番勝負ならなおさらだ。対局の興奮は容易には冷めず、打ち上げの夕食の後も頭はさえて、眠るどころではない

 数年前の王位戦。徳島対局の夜、ホテルの一室の二次会で、ほろ酔い加減の関係者と観戦記者が一局指していた
 
 一進一退の勝負が終わると、傍らで眺めていた棋士がすらすらと局面を並べ直して、ここはこう指す手がありましたねと解説し始めた。声の主は羽生善治二冠。その光景を見て、もったいなさに頭が下がった
 
 インタビュー集「不屈の棋士」(大川慎太郎著、講談社現代新書)の中で、羽生さんは初心者の互角の局面が、プロのそれよりも難しい可能性があると指摘している。「形がランダムというか、乱雑になっているから」
 
 気さくで、偉ぶらず、天真らんまん、サービス精神も旺盛な羽生さんが、将棋界で初めて永世七冠を達成した。囲碁界初の2度目の七冠独占を果たした井山裕太さんと共に、国民栄誉賞が授与される方向だ
 
 将棋も囲碁同様、人工知能に押され気味だが、羽生さんは「形のよしあしとか、美的なセンスはソフトの影響でこれから少しずつ変わっていく」と言う。斬新な着想で他の追随を許さない羽生さん。人工知能としのぎを削り、将棋の未知の領域を開拓してほしい。