刑事ドラマが好きな方はお気づきかもしれない。「相棒」「小さな巨人」などの警視庁モノで、刑事役の左胸に光る赤いバッジ。首都の難事件を追う本庁捜査一課の一員だぞ、という誇りの記章だ
 
 赤地に金でS1S。S1は捜査一課を表し、最後のSはセレクトの頭文字で「選ばれし者」。そこらの警官と一緒にするなよ、とやけに気位が高い。では、バッジにふさわしい刑事とはいかなる者か。若手の尊敬を集めていた名物刑事に聞いたことがある
 
 返答は「優秀な刑事」はわが捜査一課に来てはいけない、であった。なぜか。優秀な刑事は目先の事件処理を急ぎ、容疑者を虚偽の自白へと導く。取調室で責め立てると、人はやっていなくても「自分がやった」と信じ込む
 
 人間は弱く、記憶はもろい。都合よく再構成できる。供述の矛盾を突くことなく、手際よく調書を仕上げて一件落着。おれは優秀だとうぬぼれる
 
 患者の人工呼吸器を故意に外したとして、殺人罪で服役した元看護助手の女性に対し、大阪高裁が再審開始を認めた。担当した刑事を喜ばせようと、誘導されるまま、供述したのだという
 
 身の上話を聞いてくれ、「うれしくて、舞い上がってしまった」とも。やっていなくても「やった」と言ってしまうことが人間にはある。過去の冤罪(えんざい)事件が教える「捜査の鉄則」だ。