明治大正の評論家で詩人、高知出身の大町桂月(おおまちけいげつ)は、後半生を旅に過ごし、青森県八甲田山の山懐にある蔦(つた)温泉で没した。こんな文章を書いている

 「関東にては草津、畿内にては有馬、四国にては道後、北陸にては山中、中国にては城崎、これ古来天下に名を馳(は)せたる温泉場也(なり)」。兵庫の城崎が中国か、との疑問はあっても、桂月の選択は至極順当だろう

 全国83温泉地の人気投票「温泉総選挙」の外国人おもてなし部門で、天下の名湯を抑え三好市の大歩危祖谷温泉郷が1位になった。この10年、躍進が際立つ。年間延べ500人ほどだった外国人宿泊者は、約1万5千人に

 「大歩危・祖谷いってみる会」の植田佳宏会長に聞くと、半数は香港からで、全国に先んじて売り込んだのが功を奏したという。会員制交流サイト(SNS)を通じても人気が広がっている

 国内にとどまる限り、先細りは必至だ。それなら海外へ飛びだそう。思い切った戦略が実を結び、今や香港では、道後より祖谷の方が有名らしい。その快進撃は教えてくれる。努力には必ず応分の答えが出る

 次はアジアから世界へ。ターゲットは欧米豪なのだそうだ。もとより、もてなし好きの土地柄である。急がず休まず、地域の魅力を高めていってほしい。「一日に千里の道を行くよりも、十日に千里行くぞ楽しき」桂月。