前代未聞の事態に仰天したが、関係者の指摘にも驚いた。カヌーの有力選手がライバル選手の飲み物に禁止薬物の筋肉増強剤を入れ、ドーピング検査で陽性にさせた不祥事である

 アテネ五輪のハンマー投げ金メダリスト室伏広治さんは「海外ではよくある話」とした上で、「ボトルを1回開けて席を立ったら飲むなというのは当たり前のこと」と話した

 スポーツ倫理学が専門の大学教授も「世界では記者会見中でも事前に用意された飲み物に手を出さない選手が多い」と言う。日本の選手は危機感が薄い、自分が口にするものをもっときちんと管理しなければ、というわけだ

 相手に敬意を払い、正々堂々、公明正大に戦う。言うまでもなく、スポーツに求められるフェアプレー精神である。トップアスリートなら当然心得ているはずなのに、敬意どころか、まず疑ってかからなければいけないとは

 地元の東京五輪にどうしても出たかった。若手の台頭に焦りがあったというが、理由はどうあれ、不正は決して許されない。手段を選ばない「勝利至上主義」が広がっているのだとしたら、それこそ深刻な問題である

 名言や格言を引くまでもなく、勝ちより負けから教わるものの方がよほど多い。スポーツだけではないだろう。ドーピングの対処法とともに、改めて思い出してほしいことだ。