行きつけの本屋2軒に聞くと、入荷待ちだという。63歳、デビュー作で芥川賞に決まった若竹千佐子さんの「おらおらでひとりいぐも」である
宮沢賢治と同じ岩手生まれの人だ。題は賢治の詩「永訣(えいけつ)の朝」からである。「死の床にある妹が賢治に『私は一人で死んでいくよ』と伝えた詩句。私は『私は私で生きていく』という逆の意味で使った」。そう見聞きしただけで書店に走った人も多かったに違いない
結婚し、息子と娘を育て、合間にペンを握ってきた。9年前に夫を亡くし、支えとなったのも、また小説だった。傍らには家族がいたのだろう。「だいじょうぶだ、おらがついでっから」という声もあったのかもしれない
「老い」を新たな視点で捉え、東北弁と標準語を織り交ぜた思索的な小説だという。「おらおらで―」に描かれた、74歳の「桃子さん」と出会い、その心の内をたどってみたい
小説を書くということ。若竹さんはこう話している。「何歳でも遅いということはない。いつでも始められるというのが実感です」
徳島新聞社と徳島文学協会は掌編小説コンクール「徳島新聞 阿波しらさぎ文学賞」を創設する。人それぞれに物語があるように、書きたい、伝えたい物語もあるはず。徳島の地名や文化、歴史、産業などを作中に登場させ、一編に。出会いを待ちたい。