アルバイト先の隣に、20坪ほどの小さな書店があった。駅のすぐそばで、乗り降りする人に交じってよく立ち寄った。一見、ありふれた街の本屋だが、奥に控えている棚には人文書がぎっしり
店主の熱い思いが宿っていた。「棚で会話する」というらしいが、独自の「棚づくり」で客をうならせるのが喜びだったに違いない
近刊の「『本を売る』という仕事 書店を歩く」(潮出版社)に、店名を見つけ、懐かしさを覚えたのだが、著者の長岡義幸さんから「今月いっぱいで閉める」と聞いて、ため息が出た。また一つ、街の本屋の灯が消える
出版不況が続いている。先日発表された書籍と雑誌を合わせた2017年の紙の出版物推定販売金額は1兆3701億円で、市場規模はピークだった1996年の約52%まで縮小した。出版科学研究所の調査で分かった
街のインフラともいえる本屋がしぼんでいる。北海道から熊本まで、長岡さんは経営が困難になった理由を探りつつ、創意工夫を凝らし、地域や被災地と共にある本屋を訪ねた
そこで見つけた一つは「会話する書店」。読書会、客と一緒に古本市など平たく言えば、客が本屋を育て、本屋が客を育てる関係づくりだ。本への愛や情熱だけでは食べていけない。厳しさに押しつぶされそうにもなるけれど、やれることはまだある。