時間に縛られず、柔軟な働き方をすれば生産性が上がり、働く時間も短くなる。そんな話を裏付ける厚生労働省の調査結果があった―。飛びついたのはいいが、しかし…
安倍晋三首相の国会答弁が物議を醸し、撤回する事態になった。「裁量労働制で働く方の労働時間の長さは、平均的な方で比べれば一般労働者より短いというデータもある」といった内容である
実際に働いた時間ではなく、あらかじめ決められた時間を働いたとみなして賃金を支払うのが、裁量労働制だ。同じ給料をもらえるのなら、時間は短い方がいいに決まっている。そのメリットを強調したかったのだろう
ところが、データには不自然な点があった。まさか捏造(ねつぞう)したわけではなかろうが、働き方改革関連法案で制度の対象を広げたいという政権のもくろみに、みそが付いたのは間違いない。利点の根拠の一つが崩れたのだから
そもそも、裁量労働制の拡大は過労死遺族らが反対している。無制限で働かされる人や、残業代の節約に悪用するケースが増えるというのが理由だ。現に大手企業でも不正が分かり、労働局から指導を受けたほどである
働き方改革は過労死撲滅や長時間労働の抑制をうたっているはず。なのになぜ、逆行するようなことを進めるのか。誰のための改革かを改めて考えるきっかけにしたい。