上り始めはいまいましく、切ないけれど、年を重ねるにつれ、懐かしく、代え難いものへと変わる。そんな坂道を誰もが歩んでいるのかもしれない
「坂道のアポロン」。長崎県生まれの小玉ユキさんの同名漫画を読んでから、映画化を心待ちにしてきた。それが阿波市出身の三木孝浩監督作品として上映されるのがうれしい
舞台は、1960年代の長崎・佐世保。親戚宅に預けられた薫、転校先の札付きの不良、千太郎、その幼なじみの律子の心揺さぶる物語だ。思いが通わないもどかしさ、傷付けたくないのに傷付けてしまう未熟さ。3人を結び付けたのが、ジャズだった
見どころの一つは、薫と千太郎のセッションだろう。世代も国籍も超えて、感性を伝えられるのが音楽だという。「ふたりのセッション聴いてみたかぁ」という律子の思いがかなった、友情を超えた絆を見ることもできる
「もがきながらも成長する姿を描いた」と三木監督は語る。キャストの苦労の跡がにじむ。佐世保弁の言葉の強さも、土地の持つ力も、60年代後半のエネルギーのようなものも込めたという
薫がつぶやく、いまいましい坂を上る。息を切らして、立ち尽くしながら。途上で後押しするのは恋、友情、音楽、映画…だろうか。三木監督も、私たちも上り続ける。「坂道の―」の封切りは来月10日。