若さの欠点の一つは、あまりにも早く時がたってしまうことである。もっとも、過ぎてしまわなければ分からない。時間はお金で買い戻すことはできない

 県内の多くの公立高校で卒業式があった。就職する人、進学する人、それぞれの前に道がある。まだ見ぬ世界に心を躍らせているか、不安でいっぱいか。もし後者でも、誰もが経験することだもの、さして心配はいらない

 こんな童話がある。懐中時計といえば、今では使う人も少なくなったけれど、それがどうした弾みか、タンスの向こうへ落ちてしまった。それでも、けなげに動いている

 ネズミが見つけて笑った。「ばかだなあ。誰も見る者がないのに何だって動いているんだ」。時計は答えた。「人の見ない時でも動いているから、いつ見られても役に立つのさ」(夢野久作「懐中時計」)

 一癖ある作家の作品だけに、いかようにでも解釈することはできる。だが、ここはさらりと、裏表なく生きよ、と読む。ネズミにとっては、他人の評価こそが第一なのだろう。大なり小なりそうでなくては、この社会、やり過ごせないところもあるのだけれど

 周囲の目に全く左右されずにいるのは難しい。それでも、どんな時でも、夢や希望を忘れてはいけない。自分をごまかしてはいけない。目の前に広がる宝石のような時間を、大切に。