特殊メークで世界を驚かせた映画といえば、「猿の惑星」が挙げられる。公開はちょうど半世紀前の1968年。まるで本当の猿が馬にまたがり、人間のように言葉を話す姿に目を見張った
 
 今はCG全盛の時代だが、いくらコンピューターでも特殊メークの本物感は出せない。動物や怪物ではなく、人の容貌を変える技術で巨匠と言われたのが、「ゴッドファーザー」などを手掛けた米国の故ディック・スミスさんである
 
 米アカデミー賞でメーキャップ&ヘアスタイリング賞に選ばれた辻一弘さんは、スミスさんに憧れてメークの道を志した一人だ。京都の高校を卒業し、徳島市出身の第一人者、江川悦子さんの工房などで腕を磨いた後、渡米。本場で実績を上げてきた
 
 6年前に映画界を離れ、肖像彫刻の現代美術家に転身したが、受賞作「ウィンストン・チャーチル」の主役ゲーリー・オールドマンさんに直接口説かれ、引き受けたという
 
 俳優や監督が注目を浴びがちだが、撮影、録音といった裏方がいなければ、映画は作れない。「猿の惑星」の公開翌年に生まれた辻さんの快挙は、特殊メークという仕事に改めて光を当てた点でも大きな意義があるだろう
 
 受賞作の日本での封切りは今月30日。残念なのは、徳島県内でその予定がないことだ。少し遅れてでも、ぜひ上映してほしい。