北朝鮮情勢で日本が「蚊帳の外」に置かれつつある現状への危機感からだろう。

 安倍晋三首相が、日本人拉致問題の進展を開催条件としていた日朝首脳会談に関し、一転して無条件での実現を目指す意向を固めた。

 首相はこれまで、拉致問題を北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長に提起するよう、トランプ米大統領らに再三要請していたが、北朝鮮側はほとんど反応を示していない。

 加えて、金氏が4月下旬にロシアのプーチン大統領と会談したことで、6カ国協議の参加国首脳のうち、金氏と会っていないのは首相だけになった。

 こうした状況が、方針転換につながったことは想像に難くない。

 譲歩しすぎれば、北朝鮮を利することになりかねない。それでも、会談しなければ拉致問題で解決の糸口すらつかめそうもない。政府はあらゆる手だてを講じ、局面の打開を図ってもらいたい。

 拉致問題で北朝鮮は一貫して「解決済み」と主張してきた。ところが、2月末に開かれた2度目の米朝首脳会談で金氏が、「日朝間の懸案」との認識を示し、「いずれ安倍首相とも会う」と語っていたことが明らかになった。

 金氏の発言を受け、首相側は「会談に応じる可能性は十分にある」と分析。前提条件を置かないことで直接対話の環境が整いやすくなると判断したようだ。

 ただ、首相は首脳会談について当初「圧力を最大限にし、北朝鮮から対話を求めてくる状況をつくる」と強硬な姿勢をアピールしていた。

 昨年6月の米朝首脳初会談後に、「行う以上は解決に資する会談としなければならない」と会談を目指す考えに転じ、米朝再会談後には「私自身が金氏と向き合わなければならない」と軟化させた。

 度重なる発言の変化に、北朝鮮側も真意を測りかねていよう。

 米国頼みで拉致問題を前進させるという首相の筋書きも崩れてしまった。認識の甘さを批判されても仕方があるまい。国民への丁寧な説明が求められる。

 北朝鮮問題に関しては、日本だけでなく米国や韓国にも気掛かりな点が見受けられる。対話を優先し、事を荒立てたくないとの思惑がうかがえることだ。

 北朝鮮が2度にわたって発射した飛翔体は、新型の短距離弾道ミサイルではないかとの指摘もある。弾道ミサイルなら国連安全保障理事会の制裁決議違反になるばかりか、韓国や在韓米軍の深刻な脅威となる。にもかかわらず、両国は判断を保留している。

 こうした対応は、北朝鮮の軍備強化を容認する結果になりかねない。

 日米韓はこのまま融和ムードを推し進めていくのだろうか。核・ミサイル・拉致問題の包括的な解決に向け、改めて綿密な擦り合わせと連携の強化が必要だろう。