阿波市市場町から香川県に抜ける県道津田川島線沿い、道が讃岐山脈に向かって上り始めた所に「犬墓(いぬのはか)」という名の集落がある。自分らの土地に「墓」と名付けるのも抵抗があろうが、これには由緒がある

 案内板に従えばこうだ。四国の山野を巡って修行していた空海が、この地で暴れイノシシと遭遇。愛犬が盾になり、すんでのところで逃れた。犬は乱暴を働いたイノシシを滝つぼに追い詰めたものの、逆襲をくらい、あえなく最期を遂げる

 空海は忠犬の死を悼み、丁重に葬った。その地が代々、「犬墓」と語り継がれるようになったそうだ。事実かどうか確かめようもないが、なるほど、とはなる由来である。墓は今も伝わる

 江戸時代は享保(1716~36年)の頃、村の庄屋松永傳太夫が建て直したという。「戌(いぬ)墓」と刻まれた基礎石の上に楕円形の自然石。その上に、つまみのようにちょこんと丸い石が乗る

 基礎石の側面には犬と水差しが浮き彫りになっている。表情は温厚、しっぽの先がくるりと回り、ふふっと笑ってしまいそうな図柄だ

 阿波富士とたたえられる城王山のふもと、薄い黄緑から濃緑色まで、緑にはこんなにも種類があるのか、と改めて思わせてくれる周囲の山々。ちょっとした旧跡で知る、ちょっとしたいわれ。一人たたずみ、ちょっとした幸福感に浸る。