女性議員の増加を目指す「政治分野の男女共同参画推進法」施行後、初の大型選挙となった4月の統一地方選。徳島県議選では女性グループが推す新人が当選したほか、市町議選では女性の上位当選が目立った。それでも、全体に対する割合は県議会(定数38)で11%、改選された7市町村議会で14%にとどまる。女性にとって立候補、議員活動のハードルとなっているのは何か。どう乗り越えればいいか。選挙戦を振り返って考える。
県議選で初当選したのは、徳島選挙区(定数10)の東条恭子さん(65)=無所属。曲折を経て立候補に踏み切った。
東条さんは連合徳島事務局などを経て、1999年から徳島市議を2期5年務めた。2004年に参院選に立候補し、落選。その後はドメスティックバイオレンス(DV)の被害者支援などに携わってきた。
県議選への立候補は、女性グループや周囲からの要請がきっかけだった。昨年8月、市民団体「市民と政治ネットワーク徳島」の代表を務め、女性議員を増やす活動を長年続ける諏訪公子さん(76)=徳島市=から打診された。東条さんは「若い人を出してほしい」と断った。その後も仲間から促されたが、家族の反対もあり、前向きな返答はしていなかった。
そんな中、20年あまり前に鳴門教育大で起きたセクハラを巡る訴訟を振り返る講座に参加する。1月12日に徳島市内であり、「ストップDV・サポートの会」代表としてパネルディスカッションに臨んだ。東条さんは、原告となった女性の話に耳を傾けながら思った。「やっぱり誰かが立ち上がらないといけない」
夫から賛成の言葉を聞かないまま、選挙に向けて動き出し、2月初旬に出馬を表明した。
かつての市議選や参院選では、連合徳島など組織のバックアップがあった。今回のサポートはボランティア頼み。連合徳島女性委員会OBや女性団体メンバーらの支援を受け、8183票を得て徳島選挙区で6位当選した。「女性が女性を送り出す選挙ができた」と振り返る。
夫は選挙戦の途中から応援してくれるようになった。東条さんはこう言う。「自分が立候補を決めたら、周囲に相談しない。『出ることにした』と報告することですね」
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徳島市議選(定数30)では、主婦で新人の森本聖子さん(37)=無所属=が3619票を獲得し、2位で当選した。2歳から9歳までの4人の子どもを育てる。子育て世代に訴えたほか、元自衛官という経歴をアピールし、保守層に支持を広げた。
あいさつ回りには、2歳の娘を連れていくこともあった。幼子を連れる姿に、いい顔をしない人もいたが、「子育ての最中だからこそ、出る意味がある」と森本さん。市川房枝記念会女性と政治センターの調査(2015年)によると、地方議会の女性議員の平均年齢は57・2歳で若い世代は少ない。
家庭生活とのバランスが今後の課題だ。「子育てしながらでも議員活動ができることを示していきたい」と意気込む。
北島町議選(定数13)では、昨年の補選で初の女性議員となった中野真由美さん(48)=無所属=が、2期目を目指した。
補選は無投票だったため、今回が初の選挙戦。「支持層を固めている現職の中で戦うのは難しかった」と振り返る一方、高齢男性からも「女性議員は必要やな」と声を掛けられ、期待を感じた。
結果は945票を獲得し、2位で当選した。トップは、公明党の新人佐々木紀子さん(52)。女性が1位、2位を占め、数も改選前の1人から2人に増えた。中野さんは「相談できる仲間ができて心強い。女性でも異なる視点があることが示せる」と歓迎する。
小松島市議選、石井町議選でも、引退議員の支持層を引き継いだ女性候補者が1位で当選した。
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上位当選が目立ったが、女性の議員数は大きく変化していない。県議会は改選前と同じ4人。統一地方選で選挙があった7市町村議会は、4人増となったが、定数計102のうち14人にすぎない。
そもそも女性の立候補者が少数だ。県議選では全体の15%、7市町村議選では12%のみ。佐那河内村議選は一人もおらず、「女性ゼロ議会」が続く。
どうしたら女性の立候補者が増えるのか。
内閣府が18年に全国の女性地方議員を対象に行ったアンケート(1651人が回答)によると、女性地方議員が少ない原因(複数回答)として「議員活動と家庭生活の両立の難しさ」と「家族と周囲の理解を得づらいこと」が、それぞれ7割を超えた。
四国大の本田利広教授(地方自治)は「背景には『男性は仕事、女性は家庭』という性別役割分担の意識がある」と指摘し「まず、この意識を変えるべきだ」と強調する。
その上で「議員の育児サポートなど両立の環境整備を進めていけばよい」と提案する。沖縄県北谷町議会は、出産した女性議員のため議員控室を託児スペースとして活用した。兵庫県議会などは、議員の「育休」の明文規定を設けている。
有権者も意識改革を求められる。諏訪さんは「議員は地域の世話役だから、地元出身者がいい」という考えを改めるべきだと力を込める。女性は夫の地元を地盤に立候補する場合が多い。地方では「よそ者」扱いされたり、本人自身の地縁や血縁が乏しかったりして不利に働く面があるという。「そもそも政策や人物を見て投票する人を選ぶのが本来の姿だ」と話している。
政治分野の男女共同参画推進法 世界的に最低レベルである女性議員の比率を上げるため、国政、地方選挙での候補者数を「できる限り男女均等」にするよう政党に促す理念法。国や自治体には啓発や人材育成をする努力義務が課されている。昨年5月に施行された。
【編集後記】
政府は「2020年までに指導的地位に占める女性の割合を30%にする」との目標を掲げています。今回の統一地方選で当選した女性の割合は、この水準に遠く及びません。
一方で、徳島県議選では定数38のうち29%に当たる11人が無投票当選するなど、なり手不足は深刻化しています。本田利広・四国大教授は「労働力不足を背景に(企業等での)女性活躍がうたわれたように、議会への女性参画がもっと積極的に議論されてもいいはずだ」と話します。
今回、取材した女性議員によると、選挙を手伝ったメンバーから「私も出てみようかな」「政治って面白い」という声が聞かれたそうです。投票率は低迷し、有権者の政治離れは進んでいますが、自分と同じ性別、世代の議員がいれば、議会も少しは身近に感じられるのでは。
女性議員を増やした諸外国の多くは、一定の議席や候補者数を女性に割り当てるクオータ制を導入しています。日本でも、抜本的な改革が必要な時期ではないでしょうか。 (木下)