ちょっとしたぜいたくが際限なく欲望を生み、ついには災いを招く。そんな戒めを含む言葉「象箸玉杯」の元となった故事は、1膳の象牙の箸から始まる。古代中国、殷の時代のこと

 ある時、王が象牙の箸を作らせた。伝え聞いた側近は嘆いた。象牙の箸を使うようになれば、粗末な食器では満足できなくなる。珠玉の器を使うようになれば、ありきたりの食べ物では物足りないに違いない。食事が豪華になれば・・・。殷は、やがて酒池肉林に溺れ、滅びた

 象牙の輸出入がワシントン条約で原則禁止され、ほぼ30年。アフリカゾウを守るため、3年前には違法取引に関わる国内売買も禁じられた。だが、密猟は絶えず、年間2万~3万頭が殺されているという。持ち直しかけた個体数も再び減少に転じた

 戦犯として非難されているのが日本だ。最大の消費国だった中国に続き、英国も国内市場を閉鎖した。にもかかわらず「違法取引に関与していない」と売買をやめない

 象牙が美しい素材であることは古今東西、異論がない。古代ローマには、自ら作った象牙の乙女像に恋した王の物語すらある。だからといって・・・

 日本で販売されている象牙製品の7割は印鑑だそうだ。職人の手にかかれば、一級の美術工芸品ともなるのだろうが、そのぜいたくが、ゾウの命と引き換えという事実は重い。