和歌山大発のベンチャー企業が徳島県などでの実証試験を経て商品化にこぎつけた「パワーアシストスーツ」の販売が2月、本格的に始まった。作業負担を半減させるスーツの活用は、先端技術を取り入れた「スマート農業」の代表例として注目されている。しかし、1着100万円の高価格がネックとなり、高齢化と人手不足の著しい県内でも浸透へのハードルは高い。
「徳島はレンコンやサツマイモなどブランド力のある重量野菜の産地。ぜひ徳島から活用を広げたい」。そう力を込めるのは和歌山大発のベンチャー企業「パワーアシストインターナショナル」(和歌山市)の社長を務める八木栄一・同大名誉教授だ。
2010年度から農林水産省の委託研究として本格的に開発に着手。14年度から徳島など6県で試作品の実証試験を行い、18年10月に商品化を発表した。まずサンプル品として10台を生産。3月から量産を始め、年間100台の販売を目指す。
アシストスーツは荷物の上げ下げ、歩行などの動きを補助し、10~30キロの収穫物の持ち上げ作業で負荷を半減する。徳島では、なると金時、レンコン、大根などの収穫で農家が試用。「もっと軽くしてほしい」「かなり前かがみになる中腰の姿勢への対応が十分でない」などの要望が出され、素材を見直すなどし、開発当初に40キロ、試作段階で7キロあったのを最終的に4・7キロまで軽量化した。
実証試験に携わった県農業大学校の澤田英司准教授は「腰のひねりにも対応して動きやすい」と評価する一方で「農家にとって100万円と言えば軽トラックを買える値段。それと匹敵する魅力を感じるかどうか」と話し、農業への浸透には価格がネックとみる。
サンプル品10台のうち既に9台が売れた。しかし、購入したのは資金力のある大手ゼネコンと家電製品の配送会社だ。100万円という価格は、年間100台の生産量を基に設定している。八木社長は「年間千台生産できれば価格は50万円になる。千台を販売するためにはJAによるレンタルやリース、行政による補助金などの支援が必要だ」と訴える。
県内JAの反応はどうか。アシストスーツは傾斜地で重機の入れない果樹園での作業で重宝されるとみられている。しかし、県内随一のミカン産地の勝浦町を所管するJA東とくしまは購入助成やリースに慎重姿勢だ。担当者は「アシストスーツはまだ開発、改良過程で、価格も高く、現段階で普及を進める状況ではない」と語る。
行政の支援を受けるのも簡単ではない。農水省生産推進室によると、アシストスーツ導入は、産地の高収益化を支援する産地パワーアップ事業で助成対象となりうる。しかし、助成を受けるには、販売額増やコスト削減を達成する必要がある。同室は「実際は、アシストスーツ単独でクリアするのは難しいのではないか」とする。作業負担は軽減しても高収益化には直接結びつきづらいとの見方だ。
こうした状況下で利用価値が見込めるのが従業員を雇い入れ、大規模経営している農業法人だ。澤田准教授は「アシストスーツがあれば、力がない人でも大丈夫とアピールし、人を集めやすくなる」と指摘する。今後の普及には、女性など新たな人材確保に生かせるかが鍵を握りそうだ。
アシストスーツ モーターなど動力のある製品とゴムバンドやバネを使った簡易な製品に大別される。2017年時点で約2万6千体が出荷されている。簡易な製品が中心で、農業のほか、介護用や工場作業用として使われている。パワーアシストインターナショナルが開発したのは動力付きで、センサーで体の動きを察知し、電動モーターが駆動。持ち上げ、持ち降ろし、歩行、中腰と1台で4種類の動きを補助できる点が他社製にないセールスポイントという。中腰作業の補助に特化したタイプもある。