生地の柔らかさに定評があるさばせ大福餅。白餅とキビ餅がある

父の味を受け継ぐ2代目の森口勉さん(右)=海陽町浅川

 徳島県牟岐町から海陽町浅川まで約10キロの海岸線は、昔から「八坂八浜」と呼ばれる景勝地。岬と浜が交互に続く美しい海岸線沿いに、和菓子店「さばせ大福」はある。

 店先に「南阿波名物」と書いたのぼりがはためく。ここで作られる大福餅は生地が柔らかく、舌触りが滑らかとの定評がある。

 店のそばに四国別格霊場4番札所・鯖大師本坊があり、午前8時の開店とともに参拝客や常連客がまとめ買いしていく。休日ともなるとバスツアー客や家族連れらが増え、昼すぎには売り切れる。

 品ぞろえは白餅と茶色いキビ餅の2種類だけと、至ってシンプルだ。春先はキビ餅の代わりにヨモギ餅が販売される。

 2代目店主の森口勉さん(49)に人気の理由を聞くと、「さあ何でだろ。とりたてて特徴もないんやけど。いつも不思議に思う」と屈託なく笑う。そうは言うものの、「大福は和菓子の中で一番単純。年齢に関係なく、ふと食べたくなる。そういう素朴さがいいのでは」と話す。

 大福は毎朝6時に作り始める。前日から水に漬けておいたもち米を蒸し、きねでついた後、自家製のこしあんを包んで丸めていく。素朴という言葉通り、どこも奇をてらったところはない。

 朝夕の天気予報を見て翌日に作る量を調整する。遠隔地への発送注文にも応えているが、持ち味の食感を楽しむためには、その日のうちに食べることを勧めている。材料のもち米は、近くにある約7千平方メートルの水田で収穫したものを使う。

 八坂八浜は風光明媚な景色とは裏腹に、遍路泣かせの場所でもあった。美波町の23番札所・薬王寺から高知県東洋町の24番札所・最御崎寺までの距離は約80キロに及ぶ。鯖瀬地区は農業を営む世帯がほとんどで、鯖大師の周辺は田畑ばかり。足を休めて腹ごしらえする場所は少ない。自動車社会になった今でも、歩き遍路にとっては厳しい道のりだ。

 そのような中、先祖代々の農地を継いだ父の義之さん(85)がお遍路さんのおやつを売ろうと思いついた。40年余り前、徳島市の和菓子店で学び、国道55号沿いに所有していた畑に今の店を構えた。厳しい道中、飾り気のない甘みに出合うと旅の疲れが吹き飛ぶのだろう。大福の評判が口コミで広まるまで、それほど時間はかからなかった。

 跡継ぎの勉さんは、高校卒業後すぐに岡山市内の和菓子店で修業を始めた。「ほんまは調理師免許を取って料理人になりたかったんやけど」。とはいえ、子どもの頃から手伝ううちに、早くから父の味を受け継ぐ心づもりになっていた。3年後に帰郷し、義之さんのそばで大福作りを覚えながら二人三脚で店を切り盛りしてきた。

 修業で学んだことを踏まえ、製法を変えてみてはと義之さんに提案したこともあったが義之さんは譲らなかったという。一時はうどんも出していたが、今は休業している。

 店を取り巻く環境は変わってきた。バブル期は大型バスのツアー客がどんどん参拝に訪れ、地域が活気づいた。近年は団体客が減り、過疎化や少子化も進んで耕作放棄地が増えるなど、周辺の衰退を実感するという。

 しかし、そんな話をしている最中もバスの運転手やサラリーマンらが次々と店ののれんをくぐってくる。「お客さんがうまいと言ってくれる限り、変わらず大福を作り続けるつもり」と勉さんは語った。

 営業時間は午前8時から午後6時(売り切れ次第終了)。白餅、キビ餅いずれも1個70円。木曜定休。駐車場は15台。問い合わせは<電0884(73)3238>。

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